【医療業界レポート】
医師不足ではなく偏在である
2010年09月30日
●はじめに●
「桶狭間の戦い」で織田軍勝利の要素は何だったのか? その一つには、少ない勢力でもビジョンを共有し、明確なミッションと高いモチベーションの存在があった。
一方、今川軍の敗因は? (略)
今の日本、そして医療業界はどちらだろうか? 織田軍であれば良いのだが、どうも
今川軍(仮説)のように思えてならない。 多勢を更に増員することは、確実な勝利へ本当に結びつくのか?
多数の医師方々と接触してそのモチベーションを見てみると、今川軍のように思えてならない。であるならば、今必要なことは先ずビジョンを共有し高いモチベーションで
臨める環境整備を議論することではないか?
その上で「不足」の部分があれば「増員」を議論。モチベーションを低下させたことは、今、様々な偏在を生み、いつの間にか医師不足議論へ発展したものと推察する。
そこで、まずその偏在要素や傾向を複眼的に捉え整理してみたい。
■偏在の様々な要素・傾向■
過去2年間、47都道府県へ出張し、医師936名より聴いた声を基に、次の【6つ】を挙げることが出来そうだ。 ※ 順不同
1) 地域的な偏在
2) 開業医、勤務医の偏在
3) 女医増加
4) 人気機関への偏在
5) 診療科目の偏在
6) 転職の遠方化
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1)地域的な偏在
イ)西高東低
人口比に対する医師充足率は、西日本方面は満たされ、東・北日本方面は
満たされていない…という統計は既に関係者が承知の通り(詳細略)。
ロ)しかし、満たされている県であっても、県庁所在地&近郊は充足し、離れた
地域は医師不足問題が強まる傾向にある。だが、そうした離れた地域でも経営努力(様々な施策)によって医師を安定的に確保している機関があるのも事実。
2)開業医と勤務医の偏在
開業医増加により勤務医減少…という偏在を招いた。
■備考:開業医の経営実態は年々厳しくなり、また訴訟リスクが高まっているこ
とも受け、今後は開業するメリットは薄れると思われる。こうしたことを背景に、
地域中核機関はその開業医の積極的活用と共生を模索することで地域医療の
維持・安定を図る必要性があるであろう。また医療のチーム体制が益々重要に。
3)女医増加による現象
イ)子育で休業、あるいは夫の転勤でやむなく引退
ロ)復職したくても育児や子育て支援の環境整備(病院側)が遅れていること
で、復職を躊躇するケースも目立つ。
ハ)家庭との両立、あるいは年齢・体力を考え、専門分野を転向する(診療科目の偏在を生む要因の一つ)。
これらの点は、アクティブな臨床医数減少の要因の一つではないか?
これらの問題を先送りすれば、アクティブな臨床医師数を減少させ、それこそ「偏在」ではなく「不足」問題を招く大きな要素になってしまう。
4)人気機関への偏在
機関の経営努力(魅力ある法人・病院づくり)により、医師から人気のある機関に
は常に多数の医師が集まってくる。
- 備考:様々な施策を施した結果、常勤医・研修医の獲得に成功したことは、その経営努力を評価したい。またこうした経営努力を怠る機関は、今後淘汰される傾向は益々強まるであろう。⇔ 以前の医局制度体制下では、こうした偏在は少なかったはず。
5)診療科目の偏在
イ)医療過誤問題・訴訟リスクの少ない診療科目へ流動化:
福島県の産婦人科医師問題はこの課題に拍車をかけ、訴訟リスクの高い科目
の医師は、少ない診療科目へ転向するケースが目立つ。また開業医の一部
は、そうしたリスクマネジメントを考え、勤務医へ戻りたいとするケースも
出ている。※ 医師達のモチベーション低下を加速させた事件
ロ)専門医VS 総合医 の人材育成バランス:
「専門性」を追求する傾向が強まった結果、総合的な診療を行える医師が不足。地域特性により、都市部は専門医の発揮できる環境はあるが、地方地域は総合的な診療も必要とするため、専門医と総合医の構成バランスが取れていない現在、専門性を追及してきた医師はキャリアを発揮できる都市部やその近郊に集中する傾向が生まれているのではないか?
また大学組織は医局細分化(縦割り型組織)を進めてきたことで優秀な専門
医(例:臓器別)を多数輩出したが、その弊害として、医局と医局の隙間を
埋める総合診療医師の育成を推進しにくい環境を生んでしまった。
ハ)研修医制度の長所短所
総合的診療を施せる医師育成…という視点では、現場の声として評価は
ある。一方、ハードな診療科目は敬遠されるケースも少なくない。また自身
の選択(診療科目)は必ずしも適正がある分野を選択したとは言えない
ケースもある。
- 備考:経営努力による様々な施策で研修医をより多く集めることが出来る
機関はこの制度を大いに歓迎している。
■備考:指導的立場の医師から「研修医は何時いなくなるかわからないので、教えるにしても力が入らない」という声は極めて多い。嘗ての医局制度(徒弟制)は一長一短あるが、「徹底的な教育・指導」が出来たので若手医師の技能習得レベルは高かった…という声が多い。また最近の専門医認定試験における平均点低下を招いているという声も入ってきた。
6)転職の遠方化
イ)「退局したら破門…」 こうした価値観を持つ大学医局幹部がいる場合、医局員(医師)はシガラミの無い地域へ移る(転職の遠方化)傾向がある。結果、こうした体質を持った大学・地域の医師は減り、不足問題へ発展する要素の一つになっているのではないか? と思うことが多くなってきた。逆に都市部はこうした医師達の受入地域になり、都会と地方の偏在をさらに加速させている。
ロ)大学教授選の節目。大都市であれば、同地域内で転職あるいは開業と様々な
選択肢があるが、地方のように狭い地域社会では、心理的に「離れた地域・ 都市へ転職」という心理が働くケースをよく目にする(全国的に)。
■その他の声■
・時間の偏在:
「9~5時」的な医療従事者が増加しているのでは?
結果、夜間救急体制の崩壊を招く地域も発生。(5時前にレコーダーの前に
タイムカードを持って待機する医師が増えているようだ=医療経営者・側近のコメント)。
・雑務が多く、手術後に部屋へ戻ると書類が山積み。近年の「インフォームド
コンセント」をはじめ、診療業務に関わる書類増加。オペ後の疲労を更に…
こうした雑務をサポートする体制づくりがモチベーション維持に繋がるとの声
も多い。
医師問題は、明らかに「不足」する地域・機関もあれば、「偏在」と思われる地域・機関もある。挙げてきた様々な偏在要素・傾向を複眼的に捉え、そしてモチベーション向上を図る施策を施すことが今必要ではないかと考える。それでも明らかに不足する部分があれば「増員」を議論すべき。
以上
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【医療業界レポート】
医師936人の声
2010年09月30日
1. サーチ対象医師の抽出
2008 年9 月1 日~2010 年8 月31 日までに、当社がインタビューを申し入れ、応諾頂いた
医師936 人の声を紹介する。
※1 候補者情報ソース
現場で評判の良い医師(医療機関に出入りする様々な業者より)/大学教授選挙
や医局人事体制絡みで外部に流出する可能性が高い医師/医局医師引き上げ
にあった医療機関で、残された医師だけでは診療継続できない可能性がある
医師/医療従事者(医師、元事務長) 等
2. 936 人の転職意欲と活動状況
インタビューの申し入れに応諾した医師936 人の転職意欲度は、
1 「医局医師引き上げで診療継続ができなくなったため、次が決まれば即転職」=1 割
2 「年度節目の3~4 月。またはその翌年に転職を考えている」=約4 割
3 「内容によって考えたいが、動くとしても数年先」=3 割
4 「転職は相当先と思っていたので全く考えていなかったが、後学のために聞いておき
たい。また外部業界と接する機会が少ないので、外から見た医療業界について意見
を聞いてみたいとも思っている」2 割
転職活動について、①&②は既に活動中、③&④は全く動いておらず。
転職相談相手として、①の医師引上げ情報は周辺関係者に即広がる為、様々な医療機関
や関係者より当該医師へ直接声がかかるケースが多く、争奪戦は早い者勝ち。
2 の転職相談相手として挙がったのは、
・ 知人医師、恩師
・ MR、機器メーカー営業
・ 以前から声が掛かっていた医療機関 等
また、誰にも相談せず単独で転職活動をしている先生も少なくない。
以上に共通する点は、転職活動が表面化することなく水面下で進んでいることである。
そこで当社もその中に加えてもらい、依頼案件の紹介推進を図っている。
3. 転職理由を聞いてみると
・ 医局に属する為、教授選挙の動向によって数年後の事をそろそろ考えたい。
・ 市町村合併に伴う病院統合問題はポジション争奪戦が潜む為、巻き込まれたくない。
・ 医局医師の引上げで、診療継続不能。転職を余儀なくされている。
・ Uターン(候補者の地元),Iターン(奥様の地元)を数年後に計画。
・ 大組織の管理職。だが、現場第一線で患者の顔が見える環境で適正があると判断。
・ 大学に戻れるかどうかが見えず、また戻っても納得のいくポストを与えられるか判らない。
そこで転職を一つの選択肢として考えたい。
・ レジデント教育機関の責任者。ベンチマークされるような先進的病院づくりで実績があり、
それが活かせる案件であれば、区切りが良い時期で検討。
・ 大学or 臨床現場、進路を悩む。臨床へ進む場合(転職)、相談に乗って欲しい。
・ 自治体病院に勤務。給与条件が全てではないが将来設計(教育、住宅、親の介護等)
を考えると、転職を検討せざるを得ない。
・ 年齢/体力的に限界。(例:50 歳前後を一つの境に、心臓血管外科から内科へ転身)
・ 今までと異なった医局より管理職が派遣され、相性や方針がどうしても合わない。 等
4. 転職に期待する点
・ 理念、方針、価値観等の相性を重視。また、スタッフや設備等の環境を見て、最後に
待遇面を考慮し総合的に判断したい。
・ 大都市部の医療機関を志向する医師は、若手~働き盛り(40 前後)か、元々自宅や
生活がそこに根ざしている医師。前者はキャリア形成(オペ)を短・中期的視点で捉える。
・ 大都市部以外の医療機関を志向する医師は、より総合的な診療行為を志向、または
プライベートの事情で。権威が地方にいる場合、キャリア形成の為に短・中期(1~3
年)で検討したいという30 歳代~40 歳代の医師も多数。この場合、医師本人はOKで
も家族の同意が取れない事も時折ある。理由は、子供の教育環境の問題で。一方、40
代後半になるにつれ教育問題から開放、加えて体力的問題から、勤務環境・転科等の
条件が合えば全国どこへでも行くという声も少なくない。
・ 新施設開設は魅力的。また、拡大構想があれば、そこで自己成長を図りたい。
・ 前述とは逆に大組織よりも小組織でより総合的な診療を、そして患者に接していたい。
・ 独立を視野に入れているが、それを許容いただき入職できるのであれば幸い。だが、
相性が合えば開業せずそのまま継続する事も視野に。(独立開業のリスクを考え)
・ 地元で転職はしたくない(大学医局の関係で)。シガラミの少ない地域を希望する。
・ 給与/職位等の改善 ※ 936 人・年収統計は、別途機会に紹介可 等
以上
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